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札幌地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決 1954年3月16日

北見市大通西七丁目

原告

森島林

被告

札幌国税局長

石田亮盛

右指定代理人

館忠彦

高森正雄

姥沢均

右当事者間の昭和二十八年(行)第八号所得額更正請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

原告に対する昭和二十五年分所得税について、被告が昭和二十七年十月六日になした審査決定の総所得金額八十三万五千三百七円を六十三万三千五百三十七円と変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の原因

原告は北見税務署長に対し、昭和二十五年分所得税について総所得金額を金七十万円として確定申告したところ、同税務署長は昭和二十六年三月三十日これを金百二十万円と更正した。

右更正に対し原告は同年四月二十六日同税務署長に再調査の請求をなしたが、同年八月二十四日附棄却の決定通知書を翌二十五日受領した。

そこで原告は、被告に対し適法に審査の請求をなしたところ昭和二十七年十一月四日北見税務署に出頭を求められ、係官より昭和二十七年十月六日附審査決定の通知書を示されたが、同通知書には原告の総所得金額を八十三万五千三百七円とする旨の記載があるだけで、その算出の基礎が明らかでなかつたからこれを係官に返戻した。

原告は、札幌国税局協議団帯広支部に対し、右審査決定の所得金額算出の基礎を照会したところ、同支部長より昭和二十八年三月三十日附内訳書を同年四月二日に送附された。しかして右内訳書によつてみると、前記審査決定は原告の営業上の必要経費を金四十六万千六百二十三円と認定して、総所得金額を算出しているけれども、これは誤りであつて、必要経費は六十六万三千三百九十三円であるから、右の差額二十万千七百七十円を、被告の認定した総所得金額八十三万五千三百七円から控除した六十三万三千五百三十七円が実際の原告の総所得金額である。

よつて、請求の趣旨記載のとおり審査決定の変更を求める。

なお、被告の本案前の答弁について、被告の審査決定の通知書には前記のとおり算出の基礎が示されておらず、理由の記載がなかつたから、原告は札幌国税局協議団帯広支部に対し、内訳の明細を明示するよう要求し、これに対し右支部長より、前記のとおり内訳書の送付を受けたのであるから本訴の出訴期間は、前記通知書の理由の部分に相当する右内訳書を受領した昭和二十八年四月二日より起算すべきである。かりにそうでないとしても、国税について原告を直接管轄する北見税務署長は、被告の審査決定にもとずき原告に対し昭和二十八年一月五日附所得税訂正通知書を発し、原告は同月七日これを受領したから、この日から出訴期間を計算するのが正当である。

三、原告の立証

甲第一ないし十二号証(被告は甲第一ないし五号証、第十二号証、第八号証中赤線部分の成立は不知、その余の成立を認めた)

原告本人尋問の結果

四、本案前の答弁

原告は、被告がなした昭和二十七年十月六日付審査決定の通知書を同年十一月四日に受領したから、その取消又は変更を求める本件の訴は右受領の日より三カ月以内に提起しなければならないのに、この期間をはるかに経過した昭和二十八年四月七日に提起したのであるから本訴は不適当である。よつて「訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

五、本案の答弁

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

原告の主張事実のうち、冒頭より昭和二十七年十一月四日原告が昭和二十七年十月六日附審査決定通知書を示されるにいたつた経過の点は争わないが、そのほかの事実を争う。

六、被告の立証

乙第一ないし七号証(原告は乙第二ないし七号証及び第一号証中原告名下の印影部分の成立を認め、その余の成立を否認した)

証人熊谷幸夫、安達秀の証言

理由

所得税法第五十一条第二項によれば、所得税にかんする審査決定の取消又は変更を求める訴は、審査の決定にかかる通知を受けた日から三カ月以内に提起しなければならない。しかして原告の本件審査の請求に対して、被告が昭和二十七年十月六日に決定をなし、その通知書が同年十一月四日原告に示されたことは当事者間に争のないところであつて、この決定の変更を求める訴は、右の通知を受けた昭和二十七年十一月四日より三カ月以内に提起しなければならないのに、その期間経過後である昭和二十八年四月七日に提起されたことが記録上明白な本件の訴は、不適法といわなければならない。原告は、右審査決定の通知書には理由の記載がないと主張するけれども、成立に争のない乙第七号証によれば、原告主張のようなかしは存在しないことが認められる。また、出訴期間の起算日についての原告の主張は、いずれも原告独自の見解であつて採用できないものである。しかしてこのような欠陥は補正することができないから、本案について判断するまでもなく本件の訴を却下し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 中村義正 裁判官 杉山克彦)

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